JaNISS
メールマガジン
第4号(2017年8月)
NGO安全管理イニシアティブ
JaNISSは人々に必要な支援を届けるために、日本のNGOの能力強化と情報共有を行っています
JaNISSメールマガジン第4号をお送りします。
UNHCR eCentreが10月にタイで開催する最大規模の研修、「Basics of International
Humanitarian Response (国際人道支援入門)」の募集情報もお届けします。
”Operational Security Management in Violent Environment, Good Practice Review 8(GPR8)”の抄訳は第4章です。今回は事業地からの退避や移転という、安全状況悪化に伴う厳しい判断を行うに際して、予め準備、検討しておくべきポイントがまとめられています。「よくある誤解」は一読の価値がありますので、皆様ぜひご覧ください。
1. 研修情報のご案内
UNHCR駐日事務所とeCentreより「Basics of International Humanitarian Response (国際人道支援入門)」のご案内がありましたので、共有します。
開催期間は2017年10月15日-23日の9日間、場所はバンコク・フアヒンになります。
申込みの締切りは9月4日(月) ですので、ご注意ください。
2. GPR8日本語要約
*GPR8:” Operational Security Management in Violent Environment, Good Practice Review 8”
GPR8 Chapter 4: Evacuation, hibernation, remote management programming and returnを参照
文責:CWS Japan小美野
退避・移転
セキュリティ情勢によっては職員の退避(英語でEvacuationという場合、多くは国境を超えた退避行動を指す)や移転(英語のRelocationは国内における場所の移動を指す事が多い)、または活動を休止する事が必要になる。これらは自主的に行う事もあれば、例えば現地政府によるNGOの国外追放など、強制される場合もある。国外退避や移転をいつどの様に行うかという計画は持っておくべきであるが、よくある誤解を紹介したい:
1. 避難は最終的な手段であり、その前に段階的に取るべき施策がある
情勢の変化によっては活動・行動の見直しや休止を行う事もあり、最終的にリスクが許容範囲を超えた場合に避難を考えるものである。しかしながら、セキュリティ情勢の変化は「徐々に」訪れない事も多く、常に段階的な措置が行えるとは思わない方が良い。
2. 計画通りに退避できる
退避や移転を即決しなければいけない環境で訓練を受ける事は少なく、その様な状況で計画通りに行動出来るスタッフは少ないものである。特に強制的に避難を強いられる場合は計画通りにいかない事もあり、避難自体が不可能な場合もある事を覚悟すべきである。
3. セキュリティ情勢が改善すれば元の場所に戻れる
一度退避をすれば全て元通りの環境に戻れる事は少ない。場合によっては遠隔で複数年事業運営をしなければならない場合もある。
退避・移転の決断
退避や移転を行う決断は、プログラムの継続の観点からも人道主義に基づいたミッションの遂行と照らし合わせてみても非常に難しいものである。特に「現地と共に歩む」事を信念とする人道支援団体にとっては苦渋の決断となる。よって、最後の最後まで避難や移転の決断が出来ない事が多い。白か黒かの決断だけでなく、段階的な決断をする指標を設定しておくことが望ましい。また、それらの決断はいつ誰が出来るのかもあらかじめ決めておきたい。
退避・移転に関するルール・規約
退避や移転が必要になった状況下において、それぞれの職員の責任や団体の責任範囲は事前に明らかにしておくべきである。例えば国際職員は国外退避の対象となるが、現地職員はその対象にならず、その代わりに安全な場所への移動・滞在費を団体が支払うなどである。また、退避勧告を無視した職員は即刻契約を打ち切るなど、セキュリティの重要性を人事面でも明記しておくことが重要である。大使館などの協力のもとに退避や移転を行う場合、どの国籍の職員が対象となるのかも事前に調べておく必要がある。
場合によっては職員数を抜本的に減らし、セキュリティリスクを下げ、最終的な全体移転に繋げるのも有効である。その際は移転プロセスや事業実施において最低限必要な人員だけを残し、その他の職員は移転させるなどの措置を取る。特にセキュリティターゲットとなっている職員や人種・宗教・性別などの理由からリスクが比較的高いと思われる職員は優先的に退避・移転させたい。また、高いストレス環境下において、他のチームメンバーや退避・移転プロセスに支障をきたすような態度・精神状態の職員は、たとえ中心的な職員であろうと早めに退避・移転させた方が良い。
現地職員へのケア
国際職員の退避を行うと、現地職員との間で確執が生じる事がよくある。「外国人は重要で現地人は重要でない」というイメージを持ってしまう為である。これを完全に防ぐ手立てはないが、事前に現地職員の権利や移転プロセス、団体の責任範囲などを明確に共有しておくことが重要である。「こうしてくれると思っていたのに」という思い込みは仮に間違っていても後にストレスになり、団体への不満につながる。
現地職員を移転させた際、移転先での状況の把握やその環境下におけるケアなどどの様に行うか事前に決めておきたい。また、家族や親せきなどがいる為に移転をしたくない現地職員も多々いる事を覚えておきたい。その様な状況下では金銭的なサポートを団体が行うのが一番効率的なケアである。また、金銭的なサポートを行う場合、どの通貨で受け取りたいかを事前に確認しておく必要がある。国や地域によってはドルのような通貨の方が使いやすい場合もあるであろうし、両替ができず長期的にローカルマーケットで生活を支える場合は現地通貨の方が使い勝手が良い場合もある。
パートナー団体との関係性
特定の国・地域ではNGOの存在を疎ましく思う政府もおり、(特に人権侵害などを目撃されたくないと思っている場合など)何かしら理由をつけられてNGOが追放勧告を受ける事がある。非常に稀なケースではあるが、以下の点に気を付けたい:
・ 現地政府の通告に対して反対行動を起こすか否か。もし起こす場合、法的・コンソーシアム化してのアドボカシー・メディアキャンペーン・大使館やドナー政府との連携など、どの方法を取るべきか。
・ 退避した場合、現地職員の安全性は確保されるか。その他保有している資産の扱いはどうなるのか。
・ 職員の個人情報が保護されているか。また、退避する場合給与の前払いなど、金銭的な現地職員へのケアがなされたか。
・ メディアの反応に対してどの様に対応するか。
現地政府による強制追放への対応
特定の国・地域ではNGOの存在を疎ましく思う政府もおり、(特に人権侵害などを目撃されたくないと思っている場合など)何かしら理由をつけられてNGOが追放勧告を受ける事がある。非常に稀なケースではあるが、以下の点に気を付けたい:
・ 現地政府の通告に対して反対行動を起こすか否か。もし起こす場合、法的・コンソーシアム化してのアドボカシー・メディアキャンペーン・大使館やドナー政府との連携など、どの方法を取るべきか。
・ 退避した場合、現地職員の安全性は確保されるか。その他保有している資産の扱いはどうなるのか。
・ 職員の個人情報が保護されているか。また、退避する場合給与の前払いなど、金銭的な現地職員へのケアがなされたか。
・ メディアの反応に対してどの様に対応するか。
退避・移転の計画作り
計画通りにいかない事もあるとはいえ、団体の戦略的なセキュリティ対応を定義する為にも退避・移転に関する計画作りは必須である。また、それらの計画は定期的に見直し、シミュレーションや会議などを通じた周知を図っておきたい。計画作りにおいて、以下の点を強調しておきたい:
・ 情勢によって通れる道や退避・移転方法が変わる事がある。
・ ロゴや無線を搭載した車両の方がよいのか、団体名を明示しないような車両で移動する方がよいのか。
・ 自団体が用意するオプション以外にも(例えば外国政府や国連機関など)使用できるオプションがあるか。
・ 例えば空路の退避などの場合、集合場所は事前に決めておき、そこまでにたどり着けるいくつかのルートを確認する。
・ 国外への退避の場合、退避先の国の査証や許可など事前に取得しておくべきか。
・ 団体の重要情報、資産や個人のパスポートなど、退避時に持ち出すべきものが特定されてあるか(緊急用鞄など)。
セキュリティ情勢が許せば現地職員による事業継続も可能性としてあり得る。しかしながら、その場合は現地職員の安全が確保されている事や、事業継続に関しての権限移譲などを確認しておきたい。
活動休止(Hibernation)
場合によっては移動しない方が安全な事もあり、その場合は活動休止する事により安全な場所でセキュリティ情勢が好転するのを待つ。活動休止を行う際には十分な食料・水・薬・寝具・トイレ・燃料・電気などが確保されているかを事前に確認すべきである。また、それが長期間に渡った場合、精神的なケアの為にもある程度の娯楽(本やゲームなど)や通信手段(ラジオ、テレビ、電話、インターネットなど)は用意しておきたい。もし爆弾のリスクが高い場合は”Safe Room”と称する安全地帯を施設内に設けておきたい。その際は専門家に相談しながら作る事をお勧めする。
遠隔管理
退避後の事業継続を行う場合、遠隔から事業を管理する事もある。しかしながら遠隔管理を行う場合に気を付けなければいけない事がいくつかある:
・ 単に現地へのリスク移転となっていないか。
・ 事業継続に必要な資金や物資などは現地に届ける事が可能であるか。
・ 現場にいない職員は状況の変化を察知しにくく、情勢分析が鈍り、重要な決断が遅れる可能性がある。
・ 少数の現地職員への責任範囲の集中により、ストレスの増加や燃え尽き症候群に繋がりやすい。
・ 現場によるセキュリティ対策能力を向上させる為にも、必要なトレーニングや権限移譲は行っているか。
・ 事業の質を担保できるか。
特に、単なるリスク移転となっていないかどうかは重要な視点である。1990年代のチェチェン共和国、2003年頃からのイラク、2004年頃からのアフガニスタン、ソマリアなど、国際職員と現地職員双方にリスクが高まった事例は多々あり、時には現地職員の方がセキュリティリスクを背負って活動している事も事実である。遠隔管理で事業継続するよりも退避した方が良い事もある。そこまでして続ける価値のある事業なのか、きちんと精査した上で判断すべきであろう。
活動再開(Return)する際
セキュリティ情勢が許容範囲に戻ったと判断されれば現地における活動を再開したいものであるが、その際は以下の点を調査する先遣隊の派遣から始めるべきである:
・ 現場における実際の状況
・ 3~6ヵ月の想定できる情勢変化
・ ロジ・移動手段の確保・変化
・ 退避・移転しなかった職員の安否確認
・ 団体資産の状況
・ 現地における団体のイメージ
・ 食料・水・燃料などの確保
・ セキュリティリスクの変化及び活動再開のメリット
退避した国際職員が再度活動地域に戻る場合、現地職員との確執が生じる事がよくある。現地職員からしてみれば、国際職員がいなかった間もきちんと管理できたという自負があるであろうし、現地職員への不信感から国際職員が戻ってくると理解されないようにしたい。遠隔管理はうまく行えば、現地職員のエンパワーメントにも繋がり、団体の将来的なリーダーシップ・人材育成の観点から有益な事もあるのである。
NGO安全管理イニシアティブ (JaNISS)
(Japan NGO Initiative for Safety and Security)
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