JaNISS
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第3号(2017年7月)
NGO安全管理イニシアティブ
JaNISSは人々に必要な支援を届けるために、日本のNGOの能力強化と情報共有を行っています
” Operational Security Management in Violent Environment, Good Practice Review 8(GPR8)”の抄訳は、第3章に入りました。いよいよ安全管理の本質といえる安全管理戦略に関してです。人道支援、開発支援に従事するNGOは、3つの戦略のうち特に「受容」を重視しますが、これも十分な準備と能力、努力があってはじめて可能となること、また「防御」と「抑止」も含め、3つの戦略の長短を慎重に検討の上で組み合わせる必要があることが説明されています。
9月17日からタイで開催のSecurity Risk Management Workshopのご案内もお送りします。
1. 研修情報のご案内
UNHCR駐日事務所とeCentreより「安全管理研修 (Security Risk Management – SRM)」のご案内がありましたので、共有します。
開催期間は2017年9月17から22日の6日間、場所はバンコク・フアヒンになります。
申込みの締切りは8月3日(木) ですので、ご注意ください。
2. GPR8日本語要約
*GPR8:” Operational Security Management in Violent Environment, Good Practice Review 8”
GPR8 Chapter 3: Security Strategy 及びAnnex 4: Private Security Companiesを参照
文責:CWS Japan小美野
セキュリティ戦略
支援現場におけるセキュリティ確保の為の方法論は大きく3つに分類される。それらは以下の通りである:
①受容(Acceptance):対象国、対象地域において当該団体やその活動を広く認知してもらい、受容してもらう事によって、政治的社会的な合意を得ようとするアプローチ。
②防御(Protection):脅威そのものを取り除くものではないが、防御策を講じる事により、脅威のターゲットになる事や、有事の際のインパクトを最小化しようというアプローチ。
③抑止(Deterrence):ある脅威に対してこちらも脅威を用いる事により、攻撃する意識を低下させようというアプローチ。
支援現場においては、どれか一つのアプローチを用いるという事はあり得ず、多くの場合上記3つのアプローチを効果的に使い分ける事が重要である。また、どの組み合わせもリスクを「ゼロ」には出来ない事も理解すべきである。
通常NGO活動においては、裨益者及びコミュニティからの受け入れがあって初めて成り立つ活動であり、上記のアプローチの中で①の受容がベースとなるが、留意点はどのアプローチも相応の人的・金銭的・物的費用を要するものであり、受容が安いアプローチであるという考え方は間違っている。能動的に受容を高めようとすれば、それ相応の能力や時間、そして活動を行って初めて達成できるものであるからである。
受容(Acceptance)アプローチ
よく誤解がある所であるが、受容は「受容してもらっているだろう」と想像するものではなく、能動的に作っていくものである。そしてそれらは簡単に手に入るものではなく、近年はより難しくなっているという研究結果もある。
能動的に受容を作って行く為にはどうしたら良いのか、であるが、ステークホルダーに対する説明や働きかけ、社会性や政治性、人間力のあるスタッフによる時間的投資、組織や活動に関するメッセージの明確化などが求められる。
誰に受容されたら良いのかという点も重要である。単にプロジェクトの裨益者だけが脅威を生み出すグループではなく、支援を受けない人たちも含めて支援活動の周辺環境に存在するアクターは誰なのか、何故受容するか(あるいはしないのか)、受容レベルは如何ほどのものか、更に受容レベルを高めるには何をしたら良いのかを分析する事が重要である。これら分析には以下のような表でまとめてみる事をお勧めしたい:
アクター | 受容レベル(無し、低い、十分、高い等) | 受容レベルの理由 | 受容レベルを高める施策 |
また、受容レベルはニーズと共に変化する。支援活動が自分のニーズに合っていたから受容していたというケースはよくある事で、ニーズが変わる事によってフラストレーションが高まり、受容レベルが低くなる事もある。それら変化を見極めるのも重要なリスク分析である。また、2004年のインド洋大津波でも散見されたが、裨益コミュニティに対して出来もしない事を約束してしまったり、約束した支援活動を行わなかったりすると受容レベルは急に下がる。
脅威によってはコミュニティの力を超えたものもある事も認識すべきである。もちろんコミュニティが支援団体やスタッフを守ってくれる事も大いにあるが、最近のテログループの行動や政治的思惑によって動員されるものなど、コミュニティ自身ではどうにもならない脅威も多く存在する。
受容を高める為には能動的な行動が必要なのは前述した通りであるが、組織や活動におけるメッセージは一貫性があり、分かり易いものにしておく必要がある。近年では、当該国内だけで広めているメッセージだと思っていても、インターネットなどで容易に調べられる事もあり、国内外で発信しているメッセージは一貫性がある事が望ましい。また、その為には組織内でそれらメッセージをどう共有するか、通常の活動に入れておくことが重要である。
組織や活動に関するメッセージを対象コミュニティなどに伝える場合、ミーティング形式で伝えたり、メディアを通じて伝えたりと色々方法はあるが、どの様に伝えるかというプロセスもメッセージと同様に重要である。例えば、地元の有力者から他のコミュニティメンバーに伝えてもらおうと思う際に、自分の団体のオフィス内だけで会議を持ち、地元有力者には常にご足労願うというのでは信頼関係は築けない。どの様に信頼関係を醸成できるかは、ローカルスタッフが一番理解している事であり、外国人だけで方策を決めない事をお勧めする。また、声明文など、広く発信するものに関しては、声明文の内容に様々なアクターがどう反応するか、熟考してから行うようにしたい。
組織に対するイメージの重要性
受容を作るのはあくまで現場にいるスタッフである為、出来る限りジェンダーや背景の異なるスタッフをバランス良く雇用したい。異なる背景のスタッフが集まると内部的な問題が生じてくる事も多いが、それは事前に織り込んだ上で組織的に対応すると決めて、人事管理に反映したいものである。ちなみに受容を形成する上でスタッフに必要となる能力は以下のようなものがある:
l アクターを特定し、積極的に関係性を構築できる
l 団体のミッションやビジョンへ共感している
l 政治性やコミュニケーション能力が高い
l 現地語に精通している
l 変化する政治的・セキュリティ環境を分析できる
l 安全確保の為に組織が整備しているポリシーやツールを使いこなす事ができる
(セキュリティ関連活動を実施する為に必要な時間を業務として有している事も重要である)
組織に対するイメージは外見や行動によっても左右される。該当国においてやってはいけない事、言ってはいけない事など、現地で活動するスタッフは事前に把握しておくべきである。国によっては独特のジェンダー感もあり、母国で良しとされている服装や行動が受け入れられない事もある。例えば、パキスタンなど、結婚前の男女が一緒のスペースで住居を共にした事が問題になった事もあるし、スリランカの様にブッダが背景に写る(人が入った)記念写真は良しとされない文化もある。特定の宗教がバックグラウンドにある団体は宗教的な対立にも留意しておきたい。
支援活動によって損をする人もいるので、その点も注意しておきたい。例えば食料配布を行う事によって現地のトレーダーが不満を募らせる、医療サービスを行う事によって現地の病院が不利益を被る、人道的保護の事業によってコミュニティ内の脅威と記録した内容に不満を持つ者もいるであろうし、NGO自体が西洋の文化として受け入れられないといった場合もある。また、長期的な紛争下において、パワーバランスが頻繁に変わる場合などは、受容自体が不可能な場合があるので、定期的かつ慎重な分析を行う事が重要である。
受容レベルを測る指標
受容レベルは「~が~なった」と言うように人数や物の数で測る事は極めて難しいが、受容しているからこその行動も存在するものであり、それらを用いて判断する事が望ましい。例えば:
l 活動に積極的に参加してくれる
l リスクが迫った際には積極的に教えてくれる
l 事業のどこに問題があるか正直に教えてくれる
l 他の支援団体とは異なると、自団体を肯定的に認識してくれている
l 何か現地で問題が生じた際に謝罪してくれる
これらを定期的なリスク分析にも取り入れ、積極的に受容レベルを判断する事をお勧めする。
防御(Protection)アプローチ
前述した通り、防御は脅威そのものを取り除くものではないが、防御策を講じる事により、脅威のターゲットになる事や、有事の際のインパクトを最小化しようというアプローチである。例えば、オフィスや所有している金銭や物品がターゲットとなりそうであるのであれば、オフィスの敷地自体を守る事も重要であるし、そもそも価値が高いものを目のつきやすい場所に置かない事や、それらを保有しているというイメージを持たれない事が重要である。
「目立たない」アプローチは多くの団体が採用しており、例えばガザの難民キャンプでは車からロゴを取るが、道中のチェックポイントではつけるといった使い分けをしている団体もある。特定した脅威から身を守る事は重要であるが、リスク対策に講じた行動が逆にリスクを増やす事にならないよう、気を付ける必要がある。
抑止(Deterrence)アプローチ
抑止はある脅威に対してこちらも脅威を用いる事により、攻撃する意識を低下させようというアプローチであるが、特に慎重な議論が必要となるのが「武装か非武装か」という点である。通常、人道支援原則に基づく支援団体としては出来る限り武装せず、かつ武装勢力とも関わらない事が望ましいが、それらを検討すべき場合も存在する。重要な点は、武装というオプションを選択した時点で、許容範囲を超えるリスクが存在するという事であり、何故その事業をその時、その場所で実施しなくてはいけないか、そこまでして実施した事業で裨益するのは誰なのか、相応の説明責任が必要となる事である。
(当該国の警察等を含む)武装した要員による抑止アプローチを選択する場合、どの機関に頼むのか、どのような武器の使用を認めるのか、どの時点で武器の使用条件を満たすのか、武器を持ち込んではいけないエリアはどこか、それらは誰がどの様に判断するのか、明確に定める必要がある。武器を有した際に、誤射などによって取返しのつかない事態になり得る事もあり、慎重な判断を提言したい。
また、リスク状況が改善しない場合には事業から撤退するというオプションを関係者に伝える事も方法としてはあるが、現在までの事例を勘案するとあまり効果的なアプローチとは言えない。しかしながら、該当地域の有力者が事態を収拾出来る範囲であり、事業がコミュニティにとって必要不可欠な価値あるものだとの判断がある場合には、効果的な場面もある事を使え加えておきたい。
参考情報:民間警備会社(Private Security Company)に関して
民間警備会社は成長している業種であり、2010年の推計によると2020億ドルもの市場が存在すると言われている。それらの会社が提供するサービスも多岐に渡り、オフィスや住居の警備、移動中の警備、ボディーガード、リスク分析、セキュリティ評価、トレーニングやコンサル・助言の実施などである。2008年に(欧米で)行われた調査では、大多数の支援団体が過去に一度はその様な会社に仕事を頼んだことがあると回答した。
民間警備会社を利用するメリットとしては:
l 自団体内に存在しない能力を確保できる
l 短期的にはコスト安である
l スタッフは他の仕事に集中できる
などであるが、デメリットとしては:
l 団体内に知見や経験が蓄積されない
l 団体のイメージの悪化
l 想定外の事態が起きた際の補償や法的コスト
などがある。
また、留意点としては、一度「防御」や「抑止」を大部分のセキュリティアプローチにしてしまった際には、その後「受容」アプローチに戻るのは非常に難しい。多くの場合、現地コミュニティは民間警備会社に否定的な意見を持っており、中には「紛争を助長している」というコメントもあるくらいである。それらの長期的コストを勘案した上で民間警備会社を使用するか否かを判断するべきである。また、長期的な影響は自団体のみならず、他の支援団体にも波及する事も勘案すべきである。
更に、民間警備会社を雇用する場合には、それらのサービスを利用する際のポリシーやガイドライン等が自団体であるか否かも重要である。例えば:
l 民間警備会社の事前チェックをどの様に行うか明確であるか
l どこまでのサービスを頼むか
l 武力行使はどの場面で良しとするか、それを民間警備会社側も了承するか
l 他のクライアントは誰で、どの様な評判であるか
l 民間警備会社で雇用する職員はどの様に扱われているか
l 武器や機器類はどの様に管理されているか
l 有事の際にはどの様に対応するか(保険等も含め)
国際的にも民間警備会社の利用や責任等を明記したガイドラインが存在し、以下も参照・活用して頂きたい:
l Global Code of Conduct for Private Security Companies and Private Military Companies
https://en.wikipedia.org/wiki/International_Code_of_Conduct_for_Private_Security_Service_Providers
l Montreux Document
https://www.icrc.org/eng/assets/files/other/icrc_002_0996.pdf
NGO安全管理イニシアティブ (JaNISS)
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