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JaNISS メールマガジン 第6号(2017年10月):連載「セキュリティに関する組織・人材マネジメント」

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第6号(2017年10月)

NGO安全管理イニシアティブ

JaNISSは人々に必要な支援を届けるために、日本のNGOの能力強化と情報共有を行っています

JaNISSメールマガジン第6号をお届けします。

今回は2つのワークショップ参加者募集の新着情報をお送りします。外務省「NGO研究会」による福岡での安全管理ワークショップ(11/18)と、UNHCR eCentreとJaNISSの共催による東京でのSafety in the Field(12/12-14)です。

” Operational Security Management in Violent Environment, Good Practice Review 8(GPR8)”の抄訳は第6章に入り、今回のテーマは「セキュリティに関する組織・人材マネジメント」です。現地事務所長、安全管理担当者に求められる経験やスキルの他、現地スタッフの重要性とその人事マネジメントについて、重要事項がコンパクトにまとめられています。ぜひご一読ください。

1.  研修情報のご案内

①平成29年度NGO研究会 安全管理ワークショップin福岡

JaNISSは、平成29年度外務省NGO研究会のテーマ「日本のNGOの安全管理における課題の把握と政策の提言」を受託した(特活)難民を助ける会(AAR)に協力して、今年度大阪、福岡、東京、名古屋の計4カ所で、安全管理ワークショップを開催しています。
現在11/18(土)に福岡でのワークショップの参加者を募集中ですので、開催に協力を頂いているNGO福岡ネットワーク(FUNN)のサイトより、以下募集情報をお送りします。

http://ngofukuoka.net/event20171118/

②eCentre×JaNISS研修情報:現場での安全対策 (Safety in the Field – SIF)研修@東京(2017年12月12日~14日)

2017年12月12日~14日、東京都内にて、UNHCR eCentreとJaNISSの共催で日本のNGOスタッフを対象に現場での安全対策 (Safety in the Field – SIF)研修を開催します。
海外事務所からの参加も可能です。以下のリンクより詳細ご確認いただき、ご応募ください。
申込みの締切りは11月9日(木) ですので、ご注意ください。
https://janiss.net/news/665/

 

2. GPR8日本語要約

GPR8 Chapter 6: People in Security Management

文責:CWS Japan小美野

セキュリティに関する組織・人材マネジメント

セキュリティに関して組織内の文化や人材は重要である。それらは時として安全にも繋がれば、セキュリティ事情の悪化にもつながる。本チャプターではそれぞれのスタッフの役割やマネジメント上留意したい事柄を紹介したい。

セキュリティの責任を持つのはカントリー・ディレクターなどの事務所長ではあるが、リスクの高い地域での活動においては、出来る限りフルタイムのセキュリティ・マネージャーを登用したい。仕事内容としては、例えば以下の事項である:
l    注意喚継続的なリスク分析を行い、リスクが高い場合には関係者に起する。
l     セキュリティ・プランの作成や、有事の際の危機管理計画を策定する。
l    新規にその活動地に来たスタッフへのブリーフィングを行い、全スタッフがリスク要因を理解しているようにする。
l     セキュリティ事案が発生した際の事象報告システムを構築する。
l     事務所・住居の安全確保や通信機器の適切な使用に関するアドバイスを行う。
l     各人の行動が、セキュリティに関する計画やポリシーに則しているかモニタリングする。
l     ガード、通信担当やセキュリティ関連スタッフのマネジメントを行う。
l     セキュリティ・トレーニングをスタッフ向けに行う。
l     セキュリティ関連費を予算組みする為の提案を行う。
l     有事の際の対応や危機管理及び事象対応後の評価に関わる。
l     他団体との情報共有や行政との関係構築に努める。

上記を全て一人で行うには無理があるので、責任範囲を明確にしつつ、チームとして取り組みたい。マネジメント会議には常にセキュリティがアジェンダの上位に来ている状況が望ましい姿である。

セキュリティ・スキルには「ハード」の側面と「ソフト」の側面がある。軍隊・諜報機関・警察などの出身者はハード対策(例えば防弾関連、無線関連、捜査など)に優れているが、多文化環境における人間関係や、人材育成スキル、マネジメント関連のソフト対策においては必ずしもそうではない。現在チーム内で有するスキルや追加で必要なスキルを見極め、置かれている環境下で必要な人材・スキルを特定するべきである。例えば戦闘地帯においてはハード対策の知識が重要であるが、セキュリティ情勢が常に変化し多数のステークホルダーが関わっている場合はソフト対策の重要性が高まる。

セキュリティ・マネージャーは国際スタッフが良いのか現地スタッフが良いのか、という議論があるが、それぞれ一長一短であり、メリット・デメリット(以下の表を参照)を理解して決断する事が重要である。

  国際スタッフ 現地スタッフ
メリット ・組織の価値観や組織文化、ポリシーなどへの理解が深い。

・ドナー機関の意向やプロジェクト・マネジメントへの理解が深い。

・現地の慣習から離れ第三者的な立ち位置・見方ができる。

・現地スタッフが直面する社会的プレッシャーがない。

・国際・ローカル双方へ行動規範をコミュニケーションしやすい。

・レポートの作成に慣れている。

・現地の社会的、文化的、政治的環境への理解が深い。

・現地住民の考え方、その裏にある理由などへの考察が深い。

・現地語を話せる。

・現地におけるネットワークを有し、情報源やアクセス向上が期待できる。

・組織内の他のローカル・スタッフとコミュニケーションし易い。

デメリット ・現地の社会的、文化的、政治的環境への理解が浅い。

・現地の歴史や考え方・見方の裏にある理由などへの考察がない。

・現地メディアや情報源を有しない。

・現地で受け入れられない態度や行動に出る事がある。

・環境に慣れている為、リスクの選別が難しい場合がある。

・第三者的な見方は難しい。

・現地社会内の様々なステークホルダーからのプレッシャーが想定される。

・国際スタッフへ行動規範の徹底が難しい場合がある。

 

個人的な行動規範

より安全・安心に繋がる個々の態度や行動としては、以下がグッドプラクティスとされている:
l     常に周りの環境の変化を認識する。
l     個人の自由よりもセキュリティ対策を優先する。
l    目立たない身なりや言動で行動する(特に社会的・文化的・政治的な意見は控え、聞き上手になる方が賢明である)。
l     同僚とのコミュニケーションを欠かさず、常に連絡の取れる手段を持つ。
l     不安感を外に出さず、一定の自信を持って行動する。

特にリスクが高まった時には、個人の態度・行動により事態が悪化する事もある。相手を刺激せず、尊厳に満ちた態度である事が安全確保に繋がる。上記にも書いたが、こういった場面では喋り上手よりも聞き上手になる方が相手を刺激しない。

スタッフへのリスク・脅威の種類

昨今現地スタッフの重要性が再認識され、全スタッフ数に占める割合も85%~95%と非常に高くなっており、現地スタッフが組織的ノウハウの蓄積に重要な役割を負っている。また、統計上、現地スタッフがセキュリティ事象に巻き込まれる事が多く、現地スタッフへの対策も国際スタッフと同様に行うべきである。

特に国際スタッフと異なる、現地スタッフ特有の脅威も存在する。例えば:
l     保守的なグループからリベラル過ぎる組織で働いていると特別視される。
l     他のコミュニティ・メンバーへ仕事を斡旋するよう求められる。
l     組織内の情報を聞き出そうとアプローチされる。
l     外国のスパイなどと誤認される。

また、男性・女性によって直面するリスクが異なる事もあり、特に性的暴力を受けた際には異性のマネージャーに打ち明けにくい事もある。それぞれが抱える課題に対して、話しやすい環境を作る事がマネジメント上重要といえる。

セキュリティ上の懸念を生み出す行動

無責任なスタッフによる分別の無い行動は時としてセキュリティ・リスクを高める。例えばマネジメントに対して不満を持っている為、言う事を聞かない。組織への想い入れが無い為、セキュリティ上重要な情報であっても報告しない。その他、組織の資産を個人の自由にする不正行動や、プライベート上の付き合いの問題がセキュリティ・リスクに繋がる事もある。

難しいのは、どこでオフィシャルな時間とプライベートな時間を分けるかであるが、組織として守るべき規範はしっかりと示しておきたい。もちろん人道支援業界で勤める者全てが聖人であるわけがないし、そう望むのも非現実的であるが、環境下で組織人として大事にすべき規範を何度も示し、理解してもらう努力が重要である。現地スタッフは状況が若干異なり、オフィスを出た瞬間にその国の市民として、自由に行動できる。そこを制限する事はなかなかできないが、最低限組織の規範は守るべく徹底しておきたい。

人材マネジメント

組織内において、民族や宗教など、異なるバックグラウンドを持ったスタッフをバランス良く登用する事がグッドプラクティスと言われている。民族間・宗教観で対立がある場合、それらを組織内に持ち込まれる事はよくあるが、それでも利益・不利益を比べてみると、バランスの取れたチームの方が良いとされている。

スタッフの雇用の際は、テクニカルな能力だけに焦点を当てるのではなく、人間関係の構築能力や外交的手腕も評価したい。また、雇用前のレファレンス・チェックは仕事面ではもちろんだが、社会的なレファレンスからも情報を得ておく事は有益である。例えば、コミュニティの有力者で応募者の事を良く知っている人に話を聞いたり、他団体で親交のある人に聞いてみるなどである。時間はかかるが、面接では把握出来ない過去の犯罪歴や問題行動などを知れる事もある。また、雇用は短期契約からスタートする事をお勧めする。

現地スタッフは様々な理由から保険に入っていない事が多いが、そういったニーズを満たすのも組織として重要な役目である。また、セキュリティ研修を受けるのは依然として国際スタッフが多いが、現地スタッフの能力向上も同じように行う事が重要である。結局のところ、国際スタッフだけを守るセキュリティ計画は組織にとってはマイナスである。

ストレス・マネジメント

人間は常にストレスを受けているもので、ストレスが全てマイナスなものではない。ストレスを感じるからこそ集中力が高まり、リスクに対して目を配る態度や行動につながる側面もある。とは言え、過大・継続的なストレスはセキュリティ上大問題である。ストレスは全てのスタッフが感じ、国際スタッフだけというわけではない。

ストレスを感じすぎると、疲れやすい、眠れない、やる気がおきない、前向きになれない、などの症状が出る。逆に、過剰にやる気が起きたり、過大な自己顕示を行ったりすることもある。それらの状況をそのままにしていると、ゆくゆくは組織への影響として跳ね返ってくるので、重要なのはそれらの兆候を早めに発見し、強制的に休ませるなどの対策である。

組織によっては「バディ・システム」といって、スタッフ2人をチームにさせ、お互いの健康やストレス状況を見て、支えるという仕組みを設けている。国際スタッフと現地スタッフのチーム編成も可能で、言語面などの難しさを乗り越えれば非常に学びの深いプロセスだと言われている。

人道支援現場では様々なストレス要因が存在し、特に被災地域で目にする現状は心に重く圧しかかる。よって、現場から帰ってきたスタッフにはデブリーフィングする機会を持ち、感じた事・考えた事などを話してもらうのが良い。あまりにもストレスの大きい事象に出くわした後は、専門家との対話機会を設けるのも手である。当該スタッフは必要ないと感じる事がほとんどであるが、組織の規定といいながら用意した方がよい場面もある。

シニア・マネージャーにおいても同様で、常に責任を負って活動をしている環境ではストレスが溜まる。ストレスを感じない事が良いのではなく、それを早めに察知して、他のスタッフに打ち明ける事も時として大事である。その上で責任を分担したり、制度を再考する事も決断力と評価したい。ストレスを隠す事では何も良くならず、なんでもそうであるが、「早期発見・早期対応」が肝心である。

現地スタッフにおいても、現地の文化においてストレスやトラウマなどのコンセプトがどの様に表現されていて、その様な状況になったらどの様に他人に伝え、対応するのか、確認しておきたい。文化によってはストレスを受けている事を言わない事が美徳とされている状況もあるかもしれないし、全く違った表現の仕方があるのかもしれない。その辺は国際スタッフと全く違ったアプローチが必要になってくる。

NGO安全管理イニシアティブ (JaNISS)
(Japan NGO Initiative for Safety and Security)

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