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JaNISS メールマガジン 第5号(2017年9月):連載「事象の報告と危機管理」

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第5号(2017年9月)

NGO安全管理イニシアティブ

JaNISSは人々に必要な支援を届けるために、日本のNGOの能力強化と情報共有を行っています

JaNISSメールマガジン第5号をお送りします。

UNHCR eCentreが日本で行う安全管理研修について、12月の開催が決まりましたので、まずは日程と内容をお伝えします。あわせて8月のSecurity Risk Management研修とトレーナー研修の報告もご覧ください。

” Operational Security Management in Violent Environment, Good Practice Review 8(GPR8)”の抄訳は、第5章「事象の報告と危機管理」です。

1.  研修情報のご案内

12月のWSの開催決定速報

日時:2017年12月12日(火)-14日(木)
場所:東京
テーマ:“Safety in the Field: workshop for Japan NGOs”(仮)
参加費用:参加費無料。また地方からの参加者には、JaNISSより交通費・宿泊費を支給予定。
申込方法等の詳細は、eCentreからの共有があり次第、お知らせします。

JaNISS研修報告: 安全管理研修(SRM: Security Risk Management)および 安全管理トレーナー養成研修(ToT: Training of Trainers) @市ケ谷(2017/8/13~17)

2017年8 月13-17日、東京市ケ谷のJICA地球ひろばにて、NGOスタッフやJICA職員などを対象に安全対策研修(Security Risk Management)および安全管理トレーナー養成研修(Training of Trainers)を開催しました。
以下のリンクにて報告を載せていますので、どうぞご覧ください。
https://janiss.net/news/629/

2. GPR8日本語要約

GPR8 Chapter 5: Incident reporting and critical incident management、

Annex 5: Insurance及びAnnex 6: Donor funding and security management参照

文責:CWS Japan小美野

事象報告やモニタリングの重要性

危機管理において、脅威やニアミスなどの情報を報告する事は重要である。その理由としては:

l  現地オフィスや本部の認識を高め、必要な対応を取る為
l  他団体や場合によっては現地政府やコミュニティへ情報提供をする事により、広く危機対応を可能とする為
l  トレンドや背景分析によってリスク分析や意思決定を向上させる為、である。

事象報告をきちんとする事によって、事業を行っている環境の変化や将来予測するべきリスクなどの情報の確度が上がり、全体的な分析能力も高まる。どの地域でリスクが高まっているのか、脅威が増えてるのか、減っているのか。そういった分析も事象報告があってこそ可能となる。

アフガニスタンのINSOのようなセキュリティプラットフォームはその様な情報を広く集め、分析結果を提供する事で付加価値を出している。その様なプラットフォームに参画する場合、どの様な情報を提供すべきか、そして情報はどの様に活用されるべきか(あるいは活用されるべきでないか)職員へブリーフィングを行う事も重要である。

どんな事象を報告すべきか

ここでいう事象とは危機管理における事象であって、職員や関係者に被害を及ぼす(あるいは可能性のある)こと・ものを指している。ニアミスにおいても然りで、その様な被害に繋がりかねない事象であり、報告すべきか悩むものは全て報告するように勧めたい。これらは自団体のみならずパートナー団体や請負業者などの情報も含まれるので、常日頃から情報共有を密にしながら業務遂行する事が大事である。

事象報告書

脅威やニアミス、あるいは起きてしまった事象は出来るだけ速やかに職員や関係者に共有すべきである。その時点では情報が全て集まっていない事も多いが、即時に対応策を考え始めなければならない場合、情報共有のスピードは生死を分けるポイントにも繋がりかねない。事象報告書は通常危機対応が終わってから執筆されるものだが、報告書に関する懸念点としては以下のものが挙げられる:

l  加害者の動機や身元が分からない事も多く、声明文などを出すのであればどれだけ確信を持てる情報なのか、常に確認すべきである。
l  自団体の職員の過失が背景にある事もあるが、それを団体として認めたがらないケースも多い。
l  事象をどの様なカテゴリーに分けるか。例えば窃盗・強盗・武装強盗や、拉致・誘拐など、どんな事象をどの様にカテゴリー分けするのか明確でない事がある。

事象報告書に含めておきたい事項

l  事象の種類(例えば誘拐、死亡、威嚇、窃盗など)

l  誰が巻き込まれたか

l  いつ起きたか

l  どこで起きたか

l  被害の有無及び詳細

l  どんな対応がなされたか

l  誰が加害者で動機は分かっているか、またその加害者はどこにいるか

l  その事象からの脅威は終わったか、それとも続いているのか

 

こういった報告書を現場の人間が書くのが難しければ、本部担当者を予め決めておいて、現場は手元にある情報を送り、その後は質疑応答形式で作成していくのも有効である。

危機対応管理

組織として有事の際への対応を主導する危機対応チームを作っておく必要がある。どんなメンバーでどの様な指揮系統か、現場オフィスと地域オフィスや本部との連携の仕方など、事前に決めておくことが望ましい。テロへの対応やオフィスの移転、避難などはこの危機対応チームによって通常意思決定がなされる。

危機対応チームを作る際に、どの様な人間が必要なのか、予め考えておきたい。例えば精神科医や交渉のスペシャリストも入れるのか、どの部署のどの人間が意思決定グループに入るのが望ましいのか。また、危機対応チームのトレーニング・シミュレーションの開催や、意思決定した事項を実行する為にはそれ相応のコスト(例えば渡航や、外部専門家の雇用コスト、やむを得ない休暇措置など)も発生するので、それらの財源はどこから持ってくるのかも決める必要がある。

有事の際にこの危機対応チームが意思決定すべき事は例えば以下のものである:

l  事業は継続すべきか、中止あるいは一時中断すべきか
l  危機対応の為にサポート人員を送るべきか(またどの分野の人員であるべきか)
l  内部や外部向けにどんな情報を共有すべきか(あるいはすべきでないか)
l  最終的に対応案の実行によって何を目指すのか(例えばけが人の救出なのか、誘拐された職員の解放なのか)

もし移転や避難をする場合、ロジ計画の承認や実行、資産の取り扱い、総務会計的業務、なども対応する必要があるし、その他にも医療面、法的側面、メディア対応など、役目は多岐に及ぶ。

コミュニケーション

有事の際、情報が的確に伝わるべき人間に伝わるよう、予め連絡網をアップデートしておきたい。また、どの様な通信手段によって情報が伝達されるのかも事前に決めておく必要がある。

現場オフィスと本部との間の通信手段を確保しておくことは言うまでもないが、有事の際には通信環境が断続的に切れる事もあり得る。よって、連絡が取れなかった場合どうするのかも考えておきたい。組織のガバナンス(理事会など)上のコミュニケーションも重要であるし、セキュリティ事象に巻き込まれた職員の家族へも丁寧な説明を心がけるべきである。

メディアへ対応する際は、共有してよい情報としてはいけない情報を明確に線引きした上で、組織としての声明文も用意して望むべきである。また、有事の際にメディアから問い合わせはくると思っておいた方がよい。

現地政府との連携

危機対応チームへのビザ発給や様々な角度からの情報共有など、地元政府と連携する事は多くの場合必須事項となる。予め心得ておくべきだが、地元政府、本国政府及び家族はそれぞれ自分で対応しようとすることも多く、それを止める事は出来ないので、密な情報共有が望ましい。

事象後の対応

危機対応に関わった者には事象への対応後、必ずディブリーフィングを行う事は重要である。また、対応がうまくいったのか、改善すべき所はどこであったか、などの評価を行う事も慣例としておきたい。評価をする際の視点だが、例えば以下のような質問が考えられる:

l  安全対策は出来ていたか
l  安全対策の詳細について職員や関係者は理解していたか
l  もし安全対策に関する情報が伝達されていたのに実行されていなかったのであれば、何故なのか
l  安全対策の基礎となるリスク分析ではちゃんと当該リスクを把握出来ていたか
l  事象が起きる兆候はあったか、あるいは想定不可能なものであったか
l  危機対応チームは想定通り動けたか、どこがうまくいかなかったか

リスク分析で設定した許容リスクが想定を上回る被害をもたらしたとすれば、許容リスクレベルの見直しを行うべきである。また、それによって事業推進にどんな影響が出るかも分析し、組織運営に反映していきたい。それらの対応を組織として行いながら、職員はその組織で継続して働こうと思えるかの判断をするもので、バイアスの無い判断が出来るようマネージメント側は配慮しておきたい。

保険

昨今、紛争地のNGO職員へ対応している保険も出ているが、その適用範囲は事前にしっかりと見定めておきたい。また、現地へ赴任する職員がどの様な保険をもっておくべきか団体として事前に決めておく必要がある。例えば以下のような保険が使われている:

l  医療保険
l  事故・死亡保険
l  傷害保険
l  緊急医療保険
l  戦争特約の入った保険
l  誘拐・身代金特約の入った保険
l  有事の際の法的コスト特約の入った保険

ただ、全ての国でその様な保険があるわけでもないし、適用される国や事象、範囲なども細かく設定されている事から、自団体の事業に一番適した保険を選ぶ事も重要である。また、いつから保険が適用されて、いつ終わるのか、この辺も見過ごしがちであるので、確認しておきたい。保険によっては、安全対策を一定レベル以上行っている団体に対しては保険の掛け金を割引するところもあるようである。

仮に保険会社が存在しない国であって、自国の保険も適用できない場合、有事の際の見舞金やその他補償に関しては、現地の慣例を調べておきたい。いくらくらいを、どの様に渡すのが一番受け入れられやすいか、現地の職員から聞き取りをするのも良い。

ドナー対応に関して

前述したように有事の際はかなりの支出が見込まれ、事前の安全対策だけでなく、有事の対応に関してもドナーと話し合っておく方が良い。安全対策や危機管理の支出に寛容なドナーも居れば、そうでないところもある。ただ、事前の安全対策もそうであるが、何にいくらかかりそうか、危機対応にはどんな準備が必要か、自団体のみならずパートナー団体の安全対策の向上をどの様に行うべきでどの様な支出が必要か、常日頃からドナーも交えて具体的な議論をしておくことが重要である。

NGO安全管理イニシアティブ (JaNISS)
(Japan NGO Initiative for Safety and Security)

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